同人文化講究 (es sphere 2nd season)

同人文化の潮流と即売会での実践についての思索

オンリーイベント進化論 - "超会議的"という形容詞

毎度のことながら反応が遅くて恐縮だが、1-2週間前にTwitter上で「博霊神社例大祭が『超会議』化してきた」という話が回っていた。同人誌即売会が、ネット配信の活用やライブイベント、企業との大型コラボレーションを行っていることを、指しているのだと思う。本質的には外部環境の変化と、同人誌即売会の戦略という話になるのだけど、一歩下がってオンリーイベントについて、いくつか考察することから始めよう。

社史的な資料が残る歴史の長い大規模即売会とは異なり、オンリーイベントに関する資料やデータは散逸しており (これが今回の記事の問題提起の一つでもある)、仮説ベースでの直観的な話になることをお許し頂きたい。

オンリーイベント自体の歴史は古く、おそらくコミケットカタログのイベント広告のページなどを見れば、それを遡ることはできるのだと思う。2000年前後、インターネットの普及によってオンリーイベントは大きく変わった。男性系で言えば『Kanon』のキャラクターファンサイト的なものが多数立ち上がり、キャラ別のオンリーイベントなどが開催された。女性系で言えば「同盟」なるウェブリング (これも死語か) が立ち上がり、オンリーイベントの勢いは増していった。

ここで面白いのは、女性系は「主催/共催サークル」「協賛サークル」のような形の、サークルが主体となったオンリーイベントが多いのに対し、男性系はイベント主催団体のようなものがいくつか立ち上がり、スタッフ主体となったオンリーイベントが中心であった (ぷにケットとかは、中間的な性格を持っていたように思う)。この背景についてはいまだに正直よくわからないのだが、結果として女性系オンリーはアンソロジーの発刊やスタンプラリーなど、サークル的な"ものづくり”企画が多かったのに対し、男性系や即売会に特価しており、あったとしてもオークション、みたいな感じであった。

こうしたゼロ年代のオンリー黄金時代 (乱立時代と言うかもしれないけど) は、会場という制約条件によって終わりを告げる。都立産業貿易センター(都産貿)や大田区産業プラザPiOといったオンリーイベントの主要会場が、会場工事や競争激化によって大規模なイベント主催団体でなければ使いづらくなってきた。また、運営という面でもノウハウが蓄積しており、ボランティアスタッフのネットワークを有する継続的な大規模イベント主催団体と、そうでない団体・サークルに差が生まれてきた。こうした要因もあり、事務や運営のミスが原因でTwitterにより"炎上"が起きやすくなった現在、オンリーイベントは"簡単に開ける"ものではなくなってきた。

時を同じくして現れてきたのが「集合系オンリー」であった。男性系では『都産祭』だし、女性系でいえばスタジオYOUのオンリーイベントなどが該当する。大規模な会場を借りて複数のオンリーイベントを開催することにより、会場の割り方は申込状況に応じて後から考えられるし、直前で流行ったジャンルのイベントを追加開催することもできる。流行り廃りのあるオンリーを束ねることで、安定した開催基盤を得るという観点では、大規模なイベント主催団体ならではの戦略であったと思う。

ぶっちゃけて言えば、こうしたオンリーイベントで「食べている」人、ないしはそこに「アイデンティティがある人」が増えることによって、本来はジャンルの盛衰に応じて規模の変化あるはずのオンリーイベント(主催団体)を、一定以上の規模で安定継続する必要が生じてくる。そのためには、ジャンルとして盛り上がっている方向性に、オンリーイベントのコンテンツを進化させたり(もちろん、そっちの方が楽しいというピュアな理由もあるが)、その後継ジャンルを含むよう境界線を拡大させたりする必要がある。これら島田紳助の言うところの「X+Yの法則」であり、イベントが"一発屋"にならないための努力だ。ニコニコ動画というプラットフォームとの相性の良い東方Projectのオンリーに「超会議」との類似点が見出せるのも、こうした意味で当然なのかもしれない。

ちなみに、知人が「そんなに文句あるなら運営側に入ってこい」的な言い方をしていたけど、その言い方自体が「運営 / お客」という二元論を生んでしまっている。そういうところまで「超会議的」にならなくてもいいのに。